今回の内容「相続税の取得費加算」の改正は一般的にそれほど注目されていないようですが、
平成27年からの相続税増税とセットで考えると、大きな影響があります。
この「相続税の取得費加算」の制度の概要や改正による影響額についてご紹介します。
 
1. 「相続税の取得費加算」の概要
 相続または遺贈による財産の取得をした個人(その相続または遺贈につき相続税額がある者に限る)が、相続から3年10ヵ月以内に、
 その相続財産を譲渡した場合には、その譲渡所得の計算上控除する取得費に、譲渡した財産に対応する相続税額を
 加算することができます。
 つまり、相続税を納付して取得した相続財産を相続から3年10ヵ月以内に売却する場合、
 譲渡にかかる税金(所得税、住民税)について、一定の金額を減額して計算することができるという制度です。
 
2. 「相続税の取得費加算」の趣旨
 相続税を払おうとして手元の現預金が足らない場合、相続した財産(土地や有価証券など)を売却することがあります。
 この場合、財産を相続することによりかかる相続税のほかに、相続財産を売却したことによる譲渡税がかかります。
 相続により取得した不動産を売却されるお客様に「なんで1つの財産に2回も税金がかかるのか」とよく言われる事があります。
 このように、相続税の課税対象となった相続財産を、相続から一定の期間内に売却する場合
 (特に相続税の納付のために売却する場合)、相続税と譲渡税が相次いで課されることによる負担を
 軽減するために設けられた制度です。
 
3. 現行の「相続税の取得費加算」
 (1) 「相続税の取得費加算」がある場合の譲渡所得の計算
    譲渡にかかる所得税等は、売却金額(譲渡収入)からその財産の取得に要した金額(取得費)
    および譲渡に要した費用(譲渡費用)を控除した利益部分(譲渡所得)に対して課税されます。
    相続税の取得費加算は、譲渡した財産に対応する相続税額を取得費に加算できるため、
    その分所得金額が低くなり、譲渡にかかる所得税等も少なくなります。 

 (2) 相続土地にかかる特例 (平成5年創設)
    バブル崩壊直後の平成5年、当時の地価動向や譲渡益に対する税率引き上げ等の事情に鑑み、
    相続財産である土地等の一部を譲渡した場合、譲渡した土地等を含む相続した「すべての」
    土地等に対応する相続税額を取得費に加算することができる特例が設けられました。
 
  
4. 平成26 年度税制改正大綱の内容

① は、昨年、会計検査院が「現行制度では、譲渡していない土地等に対応する相続税相当額も取得費に加算されるため、 
   土地等を多く相続して、その一部を譲渡したものは取得費の加算上著しく有利な状況となっている。」と指摘したことを受けての
   改正と考えられます。
   この改正により、平成27年以後に発生した相続については、相続した土地を売却しても、
   土地以外の相続財産を売却したときと同様、
   その譲渡した財産に対応する相続税相当額のみしか取得費に加算できないこととなります。
 ② については、相続税の期限内申告(相続開始から10か月以内の申告)をしていなければ、
   相続税の取得費加算は適用できなくなると読めます。
   これらは、制度の本来の趣旨に沿った改正といえますが、平成27年1月1日という改正時期を考えると、
   相続税の基礎控除圧縮による増税と同時の改正になるため、税金に与える影響は大きくなると考えられます。
 
5. 簡単な計算例

 (1) 現行の計算(相続土地にかかる特例を適用する場合) 
    譲渡金額1億2,000万円-(取得費500万円+取得費加算1億800万円+譲渡費用500万円)=譲渡所得200万円
    譲渡所得200万円×20%(所得税15%、住民税5%)=40万円
 
 (2) 税制改正後の計算(その譲渡した土地等に対応する相続税相当額を取得費として加算)
 
    譲渡金額1 億2,000万円-(取得費500万円+取得費加算2,666万円+譲渡費用500万円)=譲渡所得8,333万円
    譲渡所得8,333万円×20%(所得税15%、住民税5%)=1,666万円

 (3) 相続税が期限後申告であったため、相続税の取得費加算が適用できない場合
    譲渡金額1 億2,000万円-(取得費500万円+譲渡費用500万円)=譲渡所得1 億1,000万円
    譲渡所得1 億1,000万円×20%(所得税15%、住民税5%)=2,200万円
 
 上記の設例で相続から3 年10ヵ月以内に相続した土地等を売却する場合、
 相続したすべての土地等に対応する相続税相当額を取得費に加算できる現行制度で計算すると、
 (1)のとおり40万円の譲渡税で済みますが、その譲渡した土地等に対応する相続税相当額のみを
 取得費に加算できる税制改正後の規定により計算すると、(2)のとおり1,666万円の譲渡税がかかることとなります。
 この改正により、譲渡税だけでも1,600万円以上増加することが分かります。
 さらに、相続税の申告が期限に間に合わなかったことにより相続税の取得費加算が適用できないとすると、
 (3)のとおり、2,200万円の譲渡税がかかります。
 
6. まとめ
 上記の計算を見ていただくと、今回の「相続税の取得費加算」の改正が税額に大きな影響を与えることは
 分かっていただけると思います。
 これに加え、この改正が実施される平成27年1月1日以後の相続については、相続税が増税します。
 上記の5の計算例では相続税が1 億2,000万円としていますが、同じ相続財産で改正前であれば、相続税は1 億300万円でした。
 相続税だけでも1,700万円増税されますが、それに加え、今回の取得費加算の改正により、土地の譲渡にかかる譲渡税も
 1,600万円以上増税されるということです。
 この結果、改正前であれば土地Aだけを売却すればよかったものが、改正後は、ほかの土地も売却しなければならない
 といったことが考えられます。
 平成27年1月1日以前に相続があり、相続税を納めた方は「相続税の取得費加算の特例」税額(所得税・住民税)を
 圧縮する手段としては大変有効な手段となります。
 是非ご検討されてみては如何でしょうか?