国土交通省の調べで、所有者が不明になったままの土地が全国土の約2割、その広さは九州にも及ぶといわれています。
原因を探ると、相続登記が主な原因のようで、他人事ではないかもしれません。
所有者のわからない土地が多いということは、東日本大震災の復興時に一気に表面化しました。国による土地収用などが所有者不明で難航したためです。ここでいう所有者不明は「行方不明」ということではありません。登記されている所有者が既に亡くなり、その相続登記がされずに放置されていることを意味しています。
地方の財産価値が低い土地や山岳部の土地などでは、相続が発生した場合すぐにそれを登記しない場合が多くあります。そんな土地を受け継いでも費用がかかるし相続しても仕方がないと放置しているケースです。日本の登記制度に公信力(登記名義人が真の所有者であるという対抗力)がないことからこのような事態になっています。所有権に関する登記についてはその強制義務がありません。この制度を根本的に変えるべきだと唱える専門家も多くいます。
相続が発生するたびに増える所有者
やっかいな山岳部の土地や地方の土地に見られがちだった相続未登記地。しかし今これが都市住宅地にも及んできています。廃墟となり放置されている空家やその私道負担部分、更には身に覚えのない他人地が公図上自身の土地の中に入り込んでいる場合のその所有者。長屋や住宅密集地にある、認定を受けていない道路の個人名義の土地等です。これらの真の所有者も行方不明になっている場合が多く、こうなってくるともはや他人事ではなくなります。
自身がこれらの土地の相続人かもしれないのです。一度の相続を放置するとそこから更に相続が発生した先はねずみ算式に法定相続人が増えていきます。子供がいない被相続人の場合はその父母は既に他界している場合が多いため兄弟姉妹にまで及びます。親戚付き合いが希薄になった現代では、一度も会ったことのない親戚がいる人も少なくないでしょう。その親戚の一人にこの相続未登記地問題が発生すると、自分のところにその相続権が転がり込む可能性はゼロとは言えません。
固定資産税課からの通知などにより真の土地所有者のうちの一人がもし自分であるとわかった場合には戸籍等を調べ、他の相続人を探し出し、協力しあってその不動産の取り扱いにつき遺産分割協議等で取り決めを交わす必要があります。
求められる法改正の声
自分以外にも法定相続人がいないか確認できなければ遺産分割協議はできません。まずは登記簿上所有者の住所で住民票の除票から辿っていきたいところですが、保存期間が5年しかないためまずここで頭打ちになります。自分の戸籍から先代を辿っていくしかありません。改正前原戸籍の謄本や除籍の謄本といった古い時代の戸籍の交付を受け、もともとの土地名義人にまで辿りつかなくてはなりません。そこからまた自身以外に法定相続人になっている可能性のある人を探し出すために現代の記録まで追っていきます。原戸籍などは筆で記載されており解読するのも困難な戸籍です。登記申請を前提として司法書士に依頼し探すことになります。
この手順に沿っても相続人のうちの一人が外国に転居している場合などは全くその後の行方が分からない場合も出てきます。そのようなケースでは、裁判所に管財人の選任を申し立てなければなりません。ここまでくるとかなり厄介です。短期的な解決策を講じながらも登記法改正を求める声が上がるのも当然かもしれません。
核家族化、家系の不継承なども要因となりこれから益々こういったケースは増加していくでしょう。現在の所有者が健全なうちに、その所有する不動産につき取り決めを行うか、相続が発生した際には遅滞なくその登記を完了するように各個人が意識することが不可欠です。
国交省もようやく動き出す
国土交通省は大学教授や弁護士などを委員にした会議をもうけ、2017年9月12日に増え続ける所有者不明の土地是正のため、初会合を開きました。その結果、一定の条件のもとで所有者が分からない状態でも、土地を公共事業などに活用できるようにする新たな制度や手続きを検討していくことになりました。また、所有者が分からない土地を増やさないようにする対策や放置された土地をどうやって管理していくかも議論していくことを確認しました。
年内にも所有者の分からない土地を活用する新たな制度などの方向性をまとめたうえで来年の通常国会に必要な法案を提出することをめざしています。